七里ヶ浜 草の想い(2013/6/29)

江ノ電は乗ること自体が旅行だと思う。藤沢から家の軒先をかすめるように走り、江ノ島の先で公道に出たかと思うと、腰越の左カーブを抜けたところで広大な相模湾と相対する。

そんな海沿いから急カーブで内陸に突っ込んだところに、七里ヶ浜駅はある。なぜ内陸に突っ込んでいるかというと、これはかつての海岸線に沿っているためらしい。来るたびに駅も駅前もちょっと変わっている。でも、大きくは変わっていない。

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初めて七里ヶ浜を訪れたのは松浦亜弥河村隆一の影響だから、多分にミーハーな動機ではある。両者とも現在は微妙な感じだが…。でもそれから毎年1~2回は、シーズンを外してここ七里ヶ浜を訪れている。

駅のある場所は谷戸地形となっており、水量豊富な行合川が谷底を流れている。砂浜を鎌倉高校前へ歩くのもいいが、今日はこの行合川を河口から遡ってみよう。本格的な夏を前に、砂浜は意外と人も多いし。

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合川は全長700メートル程度の小河川であはあるが、その由緒は1271年、日蓮の「龍ノ口法難」まで遡る。日蓮の処刑中止を具申する龍口刑場の使者と、赦免を伝達する幕府の使者がこの地で行合ったという。

埋立ての賜物だろう、江ノ電の橋梁から下流側の行合川はコンクリートで固められた都市河川そのもの。国道の橋梁がアーチ状になっているが、直線と曲線を中途半端に組み合わせた、何とも不格好なつくりだ。

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江ノ電の橋梁の上流側で川幅は一気に縮まり、宅地の後ろ、左手の崖線沿いに回り込むため道路からは状況が窺い知れなくなる。途中、二股に分かれた道を右に上ると西武七里ガ浜住宅。ここを造成した際の土で、先ほどの埋立てが行われたらしい。

二股を左に進むと、ほどなく行合川が姿を現す。河口近くとは違い、水量は多いながらも佇まいは郊外河川のそれである。そしてこれが、行合川最後の開渠区間

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ここから先は蓋かけの暗渠となり、水の流れを追うことはできなくなる。暗渠は道路と交差し、右手の崖線沿いへと位置を変える。無粋なコンクリート蓋ではあるが、置かれたサーフボードがいかにも湘南らしい。

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道路を奥へ進むと、すぐに七里ガ浜小学校に突き当たり、谷戸は終わる。こんな小さな谷戸であの水量…とも思うが、小学校の裏に「七里ガ浜浄化センター」があり、都市河川の水源としてはさもありなんである。

谷を取り囲む斜面は緑に覆われ、もしかしたら昔は湧水なんかがあったのかもしれない。6月の風物詩、ねこじゃらしが風に揺れる。

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先ほどの開渠のところまで戻り、そこから尾根を越えて鎌倉高校前へのルートを選ぶ。急勾配の市道を上った先には日蓮の雨乞い伝説で知られる「田辺が池」があり、これも行合川の水源のひとつとされる。

田辺が池のある霊光寺の敷地からは、紫陽花が控えめに顔を出し…。

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七里ヶ浜周辺はほとんど平地がない。尾根の上のわずかな土地が江ノ島を望む住宅地として開発されている一方で、内陸側には十分な緑地が保全されている。砂浜の喧騒とは隔絶された、静かな時の流れがある。

江ノ島を眺める、草の想いとはどんなものだろう。

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住宅地を碁盤の目に分けていた道路は次第に絞られ、一本道となり急勾配を下りていく。最後は階段となった歩道を下りきると、再び海が眼前に広がる。そんな海と砂浜を見晴らす絶好のポイントに、鎌倉高校前駅はある。

気付くとここに来ている。今日も来てよかった。